ベトナムにおけるインフラ投資:2026~2030年の投資を形作る6つの潮流と外国投資家の投資機会
現在、ベトナムは、性質の大きく異なる二つの現実に同時に向き合っています。一方では、ハノイ・ホーチミン市間を結ぶ総工費580億~670億米ドル規模の高速鉄道、ロンタイン新国際空港、急成長する洋上風力発電セクター、さらには数千キロメートルに及ぶ道路・地下鉄路線・港湾・デジタルネットワークといった野心的な開発計画を打ち出しています。他方では、2030年までに1,500億~2,000億米ドルに達すると見込まれている巨額の資金不足に直面しており、これは、政府予算・海外援助・国内貯蓄のみでは到底賄いきれません。
この資金不足をいかに埋めるかが、この10年間におけるベトナムのインフラ開発上の最大の課題であると同時に、最も重要な機会でもあります。本稿では、今後5年間にわたりベトナムと外国投資家の双方がこの課題にどのように取り組んでいくべきなのかを左右する6つの潮流を明らかにします。
地政学的背景
ベトナムにおけるインフラ投資は、国際情勢と切り離して語ることはできません。主要国間の戦略的競争の激化と製造業・サプライチェーンの移転の加速により、ベトナムは、その最大の恩恵を受ける国の一つとなりました。この流れは2025年の対米関税交渉をほぼ無傷で乗り越えたとみられ、引き続きベトナムへの大規模な製造業投資を呼び込むとともに、あらゆる種類のインフラに対する需要を急速に押し上げています。ベトナムの財政省によれば、ベトナムへの外国直接投資の実行額は約276億米ドルに達し、前年比9%増と過去5年間で最高水準を記録しました。
同時に、主要国がインフラ投資を外交政策の手段として活用し始めるなか、ベトナムは、その投資先として各国のインフラ投資が競合する舞台となっています。特定の大国に依存することなく、すべての主要国と柔軟かつ均衡のとれた関係を維持するベトナムの外交戦略は、多極化が進む世界において一層その真価を発揮しており、多数のインフラ融資パートナーシップがベトナムに集まっている背景と直結しています。
これらに加え、さらに二つの要因がベトナムを取り巻く地政学的構図を完成させています。中東における紛争と不安定な情勢の継続は、輸入化石燃料への依存を減らし再生可能エネルギー開発を加速させるというベトナムの決意を一層強めており、洋上風力をはじめとするクリーンエネルギー・インフラ投資への切迫感を高めています。紅海における海上輸送の混乱もまた、海上交通をアジアの代替ルートへと転換させ、ベトナムの港湾インフラの商業的合理性を強化しています。この傾向は、2026年初頭の港湾セクターにおける活発な投資として、既に具体的な成果を生んでいます。
これらの地政学的要因を総合すると、いずれの要因もベトナムにとって概ねプラスに作用しています。戦略的な立地、綿密に均衡を図った国際関係、そしてグローバル・サプライチェーンにおけるベトナムの重要性の高まりにより、ベトナムは、不安定さを増す世界において最もレジリエンスの高いインフラ投資先の一つとなっています。
新指導部とその政策方針
第14回党大会では、トー・ラム書記長が2031年までのベトナム最高指導者として承認されました。就任後間もない時期に下した決定の数々は、インフラ投資家にとって心強い実務的かつ成果重視のリーダーシップを示しています。トー・ラム書記長は、インフラ整備が党の信頼性を左右する重要な要素であること、インフラ整備の資金調達には民間資本が不可欠であること、そして明確で安定したルールがあってこそ投資家は集まることの三点を理解している指導者です。
この新体制の下で注視すべき動きが二つあります。
第一として、反腐敗運動は、ベトナムの統治の改善に着実な成果を上げてきましたが、意図せぬ副作用も生じたということです。多くの官僚が、たとえ誠実な判断の結果であったとしても、後日調査の対象となることを懸念して、重要な決定を下すことに対して消極的になっています。新指導部は、反腐敗の取り組みを弱めるのではなく、誠実に職務を遂行し適正な手続に従った官僚を保護する明確なルールを整備することにより、この問題に対処することができます。
第二は、成長目標です。目標として掲げた年率二桁台のGDP成長は、インフラの飛躍的な改善なくしては実現し得ません。実際に2025年に250件のインフラプロジェクトが始動したことは、ベトナム政府がインフラの改善へ本腰を入れていることを最も明確に示すものといえます。
こうした動きを踏まえれば、適切な条件が整った段階で即座に動ける態勢を整えている投資家こそが、この市場において優位に立つことになるといえるでしょう。
制度の整備
ベトナムのインフラ市場は、より体系的でルールに基づくものへと進化しつつあります。2025年には、投資・税制・土地利用・建設・発電及び電力取引・資本市場・銀行セクターを網羅する包括的な新法・改正法のパッケージが施行され、ベトナムの経済法制において最も重要な改革となりました。民間投資家にとって特に重要な変更の一つが、プロジェクト開発者を政府が直接指名する方式から、競争入札プロセスへと移行したことです。その狙いは、ベトナムの慣行を国際基準に近づけることにありますが、実際の運用上の影響は単純でなく、この点については、別稿で詳述する予定です。
その他にも重要な進展が二つありました。第一に、ベトナムは電力セクターを再編し、より多くの発電事業者が固定的な相対契約ではなく競争市場を通じて売電することを求められるようになりました。政策当局は、これにより電力セクターの透明性と民間投資家への商業的魅力が高まることに加え、意思決定を行う官僚への政治的リスクが軽減されることを期待しています。この政治的リスクとは、従来の反腐敗アプローチに起因する根強い懸念のことです。第二に、ベトナムは、カーボンクレジット市場の法的枠組みと実施ロードマップを整備しており、現在パイロットプログラムが進行中で、2029年の本格稼働を予定しています。カーボンクレジット収益は、クリーンエネルギー事業の採算性を向上させ、環境インパクトを重視する投資家を惹き付けることになります。
資本市場の面では、FTSE Russellによるベトナムの新興市場への格上げ認定が、2026年4月までに正式確認される見通しであり、年金基金やソブリン・ウェルス・ファンドといった機関投資家から、初めて大規模な資金がベトナムの公開市場に流入することが見込まれます。これにより市場の厚みが増し、インフラ投資家にとってのエグジットの選択肢も改善されると考えられます。
国有企業(SOE)の役割
2026年1月6日に発出され、トー・ラム書記長が署名した政治局決議79号(79-NQ/TW)は、国有企業に二つの主要な責務を課しています。すなわち、大型新規プロジェクトの先導と、より広範な経済の安定維持です。国有企業は引き続き、エネルギー・運輸・通信・デジタルインフラ・鉱業・建設にまたがる最も戦略的に重要なインフラ資産を所有・管理します。
この先導的役割は、既に実践の場で示されています。ベトナムの国有企業は、国内初の大規模LNGターミナル及びLNG火力発電プロジェクトを完成させ、現在は、国内初の洋上風力発電及び原子力発電プロジェクトの開発を推進中です。これらのプロジェクトは、国有企業が民間開発者にはない優位性をもって運営しているため、外国投資家が同様のアプローチをとることは必ずしも可能ではありません。しかし、これらのプロジェクトの意義は別のところにもあります。これらのプロジェクトの開発・資金調達の過程で、国有企業は、電力購入契約(PPA)におけるガス価格のパススルーメカニズムの確保など、重要な政策改革を推進してきました。これは民間投資家が単独で成し遂げるのは困難であったと考えられます。
もっとも、国有企業の限界を認識したうえで、決議79号は、コアセクターにおける民間投資家とのパートナーシップ構築を明示的に奨励しており、このようなパートナーシップは既に具体化しつつあります。例えば、洋上風力発電分野ではコペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズとペトロベトナム、ガス火力発電分野では日本及び米国の開発企業とPVPower・PVGas、港湾分野ではターミナル・インターナショナル・リミテッドとVIMCがそれぞれ連携を進めています。これらのパートナーシップが機能するのは、双方が相手に欠けているものを持ち寄るからです。国有企業は、規制当局との関係、政府へのアクセス、現地市場に関する知見を持ち寄り、国際投資家は、資本、技術、国際的な資金調達へのアクセスを持ち寄ることになります。
こうした動きに加え、国有企業改革も着実に前進しています。2024年末にトー・ラム書記長が最初に書記長に選出された直後、主要国有企業の監督権限は、国家資本管理委員会から、関連する所管省庁に移管され、国家資本の管理・セクターの専門知識・政策権限が一元化されました。決議79号は、2030年までに主要国有企業グループの100%がOECDガバナンス基準を充足することを目標に掲げており、この目標が実現すれば、ベトナムの国有企業は、国際投資家のパートナーとして格段に信頼性と魅力を増すことになります。
国内コングロマリットの台頭
過去10年間で、ベトナムには新たなタイプの事業主体が登場しました。実質的なインフラ開発能力を備え、政府との強固な関係を持ち、国際資本との協働経験を着実に蓄積している大規模民間コングロマリットです。ビングループは、国内最大級のエネルギー発電事業の構築を精力的に進めており、T&Tグループとチュンナム・グループは、大規模な再生可能エネルギーのパイプラインを構築し、国際的な共同投資家を惹き付けています。また、サングループは、複雑な空港インフラを完工させています。
これらの企業を取り巻く政策環境は、2025年5月4日に発出され、トー・ラム書記長が署名した民間経済発展に関する政治局決議68号(68-NQ/TW)により大幅に強化されました。これは、ベトナム近現代史において民間企業に関する最も重要な政策声明の一つです。決議68号は、意図的なイデオロギーの転換を行い、民間経済を「国民経済の最も重要な原動力」と位置づけました。「重要な原動力」から「最も重要な原動力」への変更は、トー・ラム書記長のリーダーシップのもとで、民間企業の役割に対する党の認識が実質的に変化したことを示す極めて重要なシグナルです。
インフラに関して、決議68号は、高速鉄道・都市地下鉄・エネルギー・デジタルネットワークを含む主要な国家プロジェクトへの民間参入を開放し、ベトナムの民間企業がグローバル・サプライチェーンにおいて外国投資家と協力することを奨励しており、ベトナム市場に関心を持つ外国投資家にとって新たな参入機会を広げています。
外国投資の不可欠性
世界銀行及びベトナム国内の様々な情報源によれば、ベトナムは、2030年までに1,500億~2,000億米ドルのインフラ投資を必要としています。しかし、政府予算で賄えるのはその半分にも満たない規模です。ベトナムが、経済成長に伴って最も有利な借入条件の適格性を失いつつあることから、海外援助は減少傾向にあります。国内資本市場は、拡大しているものの、その不足分を適時に埋めるには至りません。外国民間資本は、もはや選択肢の一つではなく、不可欠な存在なのです。
資金面にとどまらず、国際投資家は、環境基準・財務透明性・技術品質に対する厳格な要件をもたらすため、その結果として、より計画性が高く、より優れた施工がなされ、より適切に運営されるプロジェクトが実現します。したがって、外国資本の誘致は、ベトナムのインフラの量的拡大のみならず、全体的な質の底上げにも寄与します。
もっとも、国際インフラ資本をめぐる競争は現実のものであり、その激しさは増しています。インドネシア、フィリピン、インドは、いずれも同じ国際資金プールの獲得に注力しています。ベトナムが他国と差別化を図るには、より一貫性のあるルール、投資可能なプロジェクトのより充実したパイプライン、そして案件成立の実績が必要です。ベトナムが直ちに踏み出せる最も重要な一歩は、一つの主要なインフラ案件、例えば、精緻にストラクチャリングされた洋上風力プロジェクトについて、適切なファイナンスのもとで工期どおりに建設し、堅固な長期電力購入契約のもとで運営することを成功裏に完遂することです。そのランドマークとなる一つの案件は、何年にもわたる有望な政策発表よりも、国際投資家の間でのベトナムの評価をはるかに大きく押し上げると考えられます。
外国投資家にとっての機会
上述の6つの潮流を背景として、国際投資家にとって最も参入しやすく、かつ、商業的に魅力的な機会は、以下の4つのカテゴリーに集約されます。
- 地政学的整合性
原子力発電、安全保障上の要衝にあたる海域における洋上風力発電、海洋石油開発事業は、日本・米国・韓国・欧州諸国など戦略的に連携する国々からの参画をベトナム政府が積極的に歓迎しているプロジェクトです。こうした分野では、ベトナムとの地政学的な関係の近さが、障壁ではなく、プロジェクト獲得における真の競争優位として機能します。
- 諸外国の専門知識が不可欠なセクター
洋上風力発電とLNG火力発電は、多額の資金、グローバル・サプライチェーン、高度な専門エンジニアリング、そして国際的な資金調達を必要とし、これらはいずれもベトナム国内では十分に調達できません。これらのセクターでグローバルな実績を持つ投資家は、大規模かつ成長を続ける市場に直接活用できる専門性を提供できる立場にあります。
- 外国顧客を主要な対象とするインフラ
大水深コンテナターミナル、多国籍企業にサービスを提供する大規模データセンター、国際航空会社と海外旅客が利用する国際空港は、外国オペレーターのネットワーク、グローバルな事業関係、国際的に認知された品質基準がなければ事業として成立しないインフラ資産です。これらは、単なる付加価値にとどまらず、事業の根幹をなすものです。
- セカンダリーマーケットでの既存資産の取得
投下可能な大規模資本を有しながらもグリーンフィールド開発リスクを取りにくい大型インフラファンドにとっては、実績ある収益フローと長い残存耐用年数を持つ、稼働中のエネルギー資産、高速道路コンセッション及び港湾施設のパイプラインが拡大しており、魅力的な投資対象が増えつつあります。初期の開発者が新規プロジェクトへの資本リサイクルを進めるなか、売り手と機関投資家の間のセカンダリー取引の環境は着実に整いつつあります。
これら4つのカテゴリーに共通する重要な原則があります。ベトナムのインフラ市場では、国際投資家が国有企業や国内コングロマリットと協働する方が、単独で事業展開を図るよりも良い結果を得られるケースが多いということです。さらに、ベトナムのインフラ市場で成果を上げるには、以下の4つの資質が求められます。第一に、現地の規制リスク・政治的リスクに対する深い理解と、適切な法的保護・契約上の保護措置を求める規律を外国投資家が兼ね備えることです。現地パートナーは、上記リスクを外国投資家には利用できない人脈やチャネルを通じて管理することが多いため、そのような保護を不要と考える場合もありますが、それでもなお外国投資家としてはこの姿勢を貫くことが重要です。第二に、ベトナムを急速に発展する新興市場としてあるがままに受け入れ、その中で実務的に動いていくという現実主義です。個別の投資期間内には到達し得ない市場の成熟を待ち続けるのではなく、現在の環境における積極的な姿勢が求められます。第三は、相当程度の戦略的忍耐力です。状況に応じて立ち止まり軌道修正を行う柔軟性を持ちつつも、将来の進展の基盤となる現地との信頼関係を損なわないことが求められます。第四は、投資の初日から、参入のタイミングとエグジット計画の双方に対して慎重かつ規律ある注意を払うことです。
結論
このように、2026~2030年のベトナムのインフラ投資環境は、規模・内容ともに真の投資機会を提供しています。ただし、この機会は無条件のものではなく、また、いつまでも続くものでもありません。決議68号、決議79号、そして2025年の一連の立法改革を通じて築かれた政策的基盤は、ベトナムの経済改革の歴史上いかなる時点よりも強固であり、民間投資を後押しするものとなっています。投じるべき資本はあり、その対象となるプロジェクトは特定されており、また、パートナーも揃っています。今求められているのは、双方において、野心と実現の間に横たわるギャップを埋める決意なのです。
